健康に年を重ねる生き方「Healthy Aging」にテクノロジーはどう貢献できるのか

5 min read

VCT#4_Peatix.002.jpeg.jpg

2050年には65歳以上が全人口に占める割合が40%となる日本。超高齢化社会に突入しているのは日本だけでなく、ドイツでもシニアの健康的な生活と社会変容に関する議論が活発化してきています。CROSSBIEはデジタル医療領域でドイツに進出する日本企業を支援しており、今年2021年秋にはデジタルヘルスインキュベータープログラムを開始予定です。

CROSSBIEが発信する第四弾の今回のウェビナーでは、今大変注目を浴びている高齢者向けのテクノロジー、AgeTech (エイジテック)に焦点を当てて、突き進む超高齢化社会の課題解決に取り組む日独の4社からゲストを迎え「健康に年を重ねる生き方(Healthy Aging)とは何か、テクノロジーはどう貢献できるのか」についてビジョンを共有してもらいました。


第4回ウェビナーレポート:
CROSSBIE(本社: ドイツ・ベルリン)がヨーロッパと日本を繋いで発信するウェビナー第4弾

ウェビナー開催日:
2021年3月25日

モデレーター:
山本 知佳 (CROSSBIE, Managing Director)

登壇者:
Maria Hinz (BARMER, Digital Coordinator)
Daniel Young (Carepath, Co-Founder & Managing Director)
Salome Isanovic (Careship, COO)
Kenji Suzuki, Ph.D. (PLIMES, President & Co-Founder)


コンテンツ:

  1. 超高齢化社会への道を進む日本とドイツ

  2. ゲストスピーカーによる事業紹介

    2-1. ドイツ大手保険会社BARMER―デジタルヘルス事業と国のデジタルヘルス体系

    2-2. Carepath―患者を家で見守るIoTデバイス

    2-3. Careship―高齢者とフリーランス介助者のためのマッチングアプリ

    2-4. PLIMES株式会社―誤えん性肺炎を防ぐウェアラブルデバイス

  3. 課題:高齢者にデジタル機器を使ってもらえるのか

  4. 今後の展望


  1. 超高齢化社会への道を進む日本とドイツ

日本と似た国土面積を持つドイツですが、高齢化社会への変容に関しても日本と類似点があることはご存知でしょうか。ドイツでも同様に高齢化が加速しており、平均寿命は日本が84歳、ドイツが81歳となっています。また、東京大学の秋山教授による2008年の研究によると、日本人高齢者の70~80%程は70代を境に「自立率」の下降が顕著になり、日常的な動作に困難が生じてきます。誰もが健康的で充実したシニアライフを送りたいものですが、この実現に向けテクノロジーを使ってソリューションを提案する企業が登場してきているのです。

Screenshot 2021-05-16 at 21.56.45.png

2. ゲストスピーカーによる事業紹介
2-1. ドイツ大手保険会社BARMER―デジタルヘルス事業と国のデジタルヘルス体系

BARMERのデジタルコーディネーター、ヒンツ氏が紹介してくれたのは同社の展開する複数のオンラインサービスやアプリです。健康管理ができるアプリや医師とビデオ通話ができるプログラムに加え、シニアが楽しみながら体を動かせるゲーム機も開発しています。更に興味深いのは、ドイツではデジタルヘルスケア法が導入され、公式に登録・認証されたデジタルヘルスアプリのリストがあること。国全体で事業の促進を図っているんですね。

Screenshot 2021-05-16 at 21.58.39.png

2-2. Carepath―患者を家で見守るIoTデバイス

共同設立者のヤング氏がまず見せてくれたのは片手に載るほど小さく、円盤型のスタイリッシュなデバイスです。これを家に置いておくだけで、録音機能やAIによる分析を介して患者の病状がモニタリングされ、データが共有されていきます。重大な疾患のサインを事前に見つけることも可能になるでしょう。さらに、入院に際して問題となるスペースの不足や人員不足の課題解決にも繋がるポテンシャルを見出していらっしゃるそうです。

Screenshot 2021-05-16 at 22.00.03.png

2-3. Careship―高齢者とフリーランス介助者のためのマッチングアプリ

Careshipは、支援の必要なシニアと近くに住む優秀な介助者を結ぶマッチングアプリを開発、運営しています。COOのイサノヴィック氏が強調していたのは、シニアの生活を助ける実務的な部分に加え、人と接することによる精神的なサポートの提供も実現したいという点です。また、介助者にも仕事を提供できるので、双方に価値を作り出していると言えます。実際、介助者自身も退職後の仕事として始める人が多いそうです。

Screenshot 2021-05-16 at 22.00.59.png

2-4. PLIME株式会社―誤えん性肺炎を防ぐウェアラブルデバイス

高齢になると食べ物を飲み込む際の事故が起きやすくなります。そんなえん下困難が原因で、年間およそ4万人もの人が亡くなっていることはご存知でしょうか。鈴木教授の開発するGOKURIは首周りに装着するウェアラブルデバイスで、飲み込みや首の姿勢を計測し、誤えん性肺炎の危険がある場合にはアラートを出して知らせてくれます。人間の生活において一番の楽しみの一つである食事ができることを長く楽しめるようにするソリューションを提供したい、とおっしゃっていたのが印象的でした。

Screenshot 2021-05-16 at 22.02.07.png

3. 課題:高齢者にデジタル機器を使ってもらえるのか

さて、高齢者にはデジタル機器を使いたがらない方も多い印象ですが、ゲストスピーカーの間ではポジティブな意見が多く聞かれました。このようなステレオタイプは必ずしも現状に一致しないとヒンツ氏は言います。実際、既に多くの高齢者がビデオ通話を用いて医師の診察を受けるなど、デジタルサービスを使う人は増えているそうです。もちろん、サービスの設計段階から高齢者ユーザーや医療従事者の意見を取り入れ、使いやすいデザインにしていくことが重要となります。また、イサノヴィック氏のCareshipでもユーザーフレンドリーな設計と、オフラインでのカスタマーサポートの充実に重点を置いているそうです。デジタル機器に抵抗のあるシニアの方にも少しずつ慣れてもらえるよう、細やかなサポートをしていく体制を整えることが大切だと言えそうです。

Screenshot 2021-05-16 at 22.03.18.png

4. 今後の展望

終わりに、将来の高齢化社会についてみなさんの理想と展望を伺いました。ヤング氏はテクノロジーの力で予防医療に貢献したいと抱負を語ってくださいました。ヒンツ氏からはデジタル化ではあるけれども、人との感情的なつながりを引き続き実現したいという意見が聞かれました。マッチングアプリを展開するイサノヴィック氏は、メンタルヘルスへの関心も高めたいというビジョンがあるそうです。鈴木教授は患者やシニアの方が自分の状態をコントロールできるようになることで、自信を持ってもらいたいと話してくださいました。

今回のウェビナーでは、日独両国で高齢者向けのデジタル医療が発展し、様々なアイディアが形となってきていることが再確認できました。CROSSBIEでは今後もデジタル医療分野における企業の市場進出支援に力を入れていきますので、引き続き今後のプログラムにご注目ください。

Previous
Previous

地域のスタートアップの支援について:欧州の事例から

Next
Next

スタートアップエコシステム比較 ドイツ vs. フランス