ファッションとテクノロジーで描く未来 ベルリンのスタートアップ 支援プログラムを中心に

Introduction

「FashionTech」または「FashTech」は文字通りファッションとテクノロジーから成る造語だが、商品やサービスの開発や生産、流通、販売、再利用などにテクノロジーやデジタル技術を活用して新たな価値や機能、仕組みを提供する動き全般のことを指すため、その言葉が示す範囲は多岐にわたる。VR/AR、AI、IoT、ウェアラブル、3Dプリント、画像認識などの技術がBtoB、BtoC、CtoCの様々なプラットフォームで活用・導入され、「衣」に関するビジネスや人々のライフスタイルに新たな可能性と多くの変化をもたらしてきた。

今月のレポートでは、ファッションとテックのイノベーションを後押しするプログラムや2020年に業界で注目されたトピックなどを、クリエイティブとビジネスが交差する都市ベルリンを中心に取り上げたい。

Berliner Startup Stipendium

http://startupstipendium.berlin/

ベルリン・フンボルト大学、ベルリン自由大学、ベルリン工科大学、シャリテー・ベルリン医科大学が連携してスタートアップを支援する奨学金制度「University Startup Factory - The Next Chapter」。革新的な技術ベースのスタートアップ・チーム(2~4名)を対象とし、各人に毎月2,000ユーロの奨学金が6ヶ月間(条件によっては最長1年)支給されるほか、プロトタイプ開発に必要な施設へのアクセス、コーチング、資格取得のためのモジュールなどをサポートする。

ファッションやVR、音楽などを含む多様なジャンルに門戸を開き、4つの大学間のネットワークを生かした多角的な支援を行なっている。専門的な知識を持つ大卒者が対象で、ベルリンを拠点としたチームであることなどの基本条件に加え、3段階の審査過程を経る必要があるものの、アカデミックな環境でありながら事業化への実践的な支援が受けられる恩恵は大きい。

DesignFarmBerlin - Design in Tech Accelerator

https://designfarmberlin.com/

ベルリン・ヴァイセンゼー芸術大学では、デザインドリブン・イノベーションを軸としたスタートアップを支援するプログラム「DesignFarmBerlin」を通じて、若手クリエイターの起業をサポートしている。審査を通過したプロジェクトには、毎月2,000ユーロの資金を9ヶ月間(例外的に1年まで)提供するほか、メンタリングなどの個別指導を行う。2016年10月のスタート以来、これまでに健康、インタラクション、テキスタイル、ファッション、音楽の分野で様々なスタートアップや起業家が参加した。

新しいデジタル技術の登場は、デザイナーの役割を根本的に見直すきっかけとなる。デザインや製造過程、流通モデルが日々変化していくなかで、従来型の事業開発戦略とは異なる視点で新たな価値を創造しうるデザイナーやスタートアップの育成を、豊富な知見と幅広い分野のネットワークで支援している。

Textile Prototyping Lab

https://www.textileprototypinglab.com/

ドイツのテクニカル・テキスタイル(産業用繊維)分野の強化を目的に設立された学際的研究ネットワーク「futureTEX」による研究プロジェクト「テキスタイル・プロトタイピング・ラボ」は、ドイツ初のハイテク・テキスタイルのためのオープン・ラボだ。

ベルリン・ヴァイセンゼー芸術大学内にある「セントラル・プロトタイピング・ラボ」と、パートナー機関内に置かれた高度な専門施設「フォーカス・ラボ」とで構成され、各施設をつなぐ専用ソフトウェアによってリーン開発プロセスをサポートする。

テキスタイル・プロトタイピング・ラボは、繊維技術を中心にあらゆる分野の専門家や中小企業、スタートアップ、学生など、様々なステークホルダーを結びつけ交流を促進する「オープン・イノベーションとネットワーキングのプラットフォーム」としての役割を担っている。

Wear It Innovation Summit

https://www.wearit-berlin.com/

ヨーロッパを代表するウェアラブル技術のカンファレンスに成長した「Wear It Innovation Summit」は、同分野のコミュニティやハブとしても重要な役割も果たしている。2日間のサミット会期中には「スタートアップ・イノベーション・アワード」も開催され、受賞チームには賞金の他にメディアへの露出や投資家とのネットワーキングやメンタリングなどの機会が提供される。

2020年はリアルでのイベント開催は見送られたものの、現在は「Wear It Live Series」と題したバーチャル・カンファレンス・シリーズを開催。ウェアラブル技術や近接センサ技術を中心に毎回異なるテーマを設定し、専門家によるパネル・ディスカッション、ピッチ、1対1のネットワーキング・セッションなどを行っている。2021年ベルリンで開催予定の Wear It Innovation Summit の一環という位置付けだ。

次回(2021年1月21日)のテーマは「ファッション・テック」。ファッションとテクノロジーの両業界からスピーカーを招き、デジタル・ファッションの未来とスマート・テキスタイルの世界について議論を深める。

do.MORE - Zalando’s Sustainability Strategy

https://corporate.zalando.com/en/sustainability/domore-zalandos-sustainability-strategy

新型コロナウィルスの影響で世界的に大打撃を受けているファッション業界だが、同時に多くの企業が優先事項を捉え直し、ビジネスモデルを再構築する契機をもたらしている。

ベルリンを拠点にするヨーロッパ最大手ECサイト「ザランド(Zaland)」は、ロックダウン(都市封鎖)などを経て消費者の購買方法がオフラインからオンラインショッピングへと移行していることが主な原動力となり、二桁成長を続けている。

参考リンク:Zalando Records Exceptionally Strong and Profitable Growth in Third Quarter

同社が地球環境や労働環境に配慮したファッション・プラットフォームを目指し、サステナビリティ戦略「do.MORE」をスタートさせたのは2019年。その取り組みを強化すべく「2023年以降はアパレル業界のサステイナブル化を推進する団体( Sustainable Apparel Coalition )の定めた基準に達しているブランドのみを取り扱う」との決定を2020年5月に発表した。現在2,000店以上のファッションブランドが出店しているECサイトの決定が欧州ファッション業界に与えるインパクトは大きい。

製品供給におけるサステナビリティや環境問題に対する消費者の関心が高まるにつれて、そうした社会的課題に配慮した活動を積極的に行い、且つ消費者に見える形で適切にデータを示そうとする企業が増えているファッション業界。

テクノロジーを活用しながら、主要なトレンドに合わせ、進化する消費者の動向を反映させた企業は、ニューノーマル時代においてもしなやかに成長を続けて行くことだろう。


©️JETRO このレポートはCROSSBIEが日本貿易機構(JETRO)向けに作成したものを、許可を得て掲載しています。元のリンクはから。

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