女性スタートアップ起業家を支援する アクセラレーション・プログラム 5選 〜 ベルリンを中心に

Introduction

ドイツスタートアップ協会(German Startups Association)と Google for Startups が今年6月に発表したレポート「Female Founders Monitor 2020」では、ドイツのスタートアップ・エコシステムにおける女性起業家及び女性が主導するチームの現状や課題について、多面的に調査・分析している。主な調査結果として、以下の点が挙げられている。

  1. ドイツにおける女性創業者の割合は、2019年の15.1%から2020年には15.7%にかろうじて増加している。

  2. 女性主導のスタートアップ企業のうち、16.7%が医療・ヘルスケア分野で活躍しており、ドイツにおける医療イノベーションの重要な推進力となっている。一方で、情報通信技術分野では女性の割合が低く、この分野に分類されている女性主導チームはわずか8.8%である。

  3. 資金調達や投資には「ジェンダー・バイアス」が依然として存在しており、女性主導チームで外部資金を獲得した割合は42.3%で、男性主導チームの56.7%に比べて低い。100万ユーロ以上の資金調達となるとその差はより顕著になり、男性主導チームの27.8%に対し、女性主導チームでは5.2%となる。

  4. 女性の創業チームを持つスタートアップ企業は、投資部門や伝統経済などの主要なビジネス分野でのネットワークが確立されていないため、共同創業者や関連投資家、潜在顧客とコンタクトすることが難しい。

  5. 女性創業者は環境問題の解決や社会的意義を優先する傾向が強いため、グリーンエコノミーや社会起業分野での活躍が目立っている。

こうした女性創業者らを取り巻く諸課題の解決策のひとつとして、女性起業家を対象としたアクセラレーション・プログラムの利用がある。ベルリンを中心に幾つか例を取り上げるが、事業拠点がベルリンになくても応募できるケースもあるので参考にしていただきたい。

Stealth Mode : Female Founders Program

Webサイト: https://factoryberlin.com/stealth-mode/

ベルリンを代表するイノベーション・コミュニティ、ファクトリー・ベルリンと Google for Startups が運営する「ステルス・モード」は、ビジネスアイデアを持つ意欲的な女性起業家をサポートすることに焦点を当てた3ヶ月間のメンターシップ・プログラムだ。ファクトリーが有する国際色豊かなコミュニティのリーダー達と未来の女性ファウンダーを結びつけ、MVP (Minimum Viable Product) までを指導する。2020年3月に1期目のプログラムが開始され、現在は9月からスタートした2期目が進行中だ。

参加者それぞれのニーズに特化したメンターとのマッチングや定期的なセッションに加えて、参加者同士で意見交換が出来るグループセッションやワークショップなど、様々な企画を通じてビジネスジャーニーをサポートする。プログラムの最後には参加者が自らのビジネスやプロジェクトを発表する「ピッチ・イブニング」が開催される。

参加者はベルリンを拠点にしている必要はなく、製品もドイツ市場向けである必要はない。全てのプログラムは夕方に行われるので、仕事と並行しての参加が可能だ。また参加者にはファクトリー・ベルリンのメンバーシップとベルリン市内にある2カ所のキャンパスへのアクセス権が与えられる。

Grace - Accelerate Female Entrepreneurship

Webサイト: https://www.grace-accelerator.de/home.html

2018年にベルリンでスタートした女性起業家のためのアクセラレータープログラム「Grace(グレース)」では、応募者の中から選ばれた20名の女性起業家が参加する「サマーキャンプ」と呼ばれる2週間半の集中講座を通じて、デザイン思考やアジャイル開発などの手法を学びながら、アイデアとコンセプトの段階から初期のプロトタイピングを経てピッチ段階に至るまで、経験豊富なコーチや専門家のサポートのもとで事業モデルを練り上げていく。

過去のサマーキャンプには、全成分が天然由来のナチュラルネイルブランド「gitti」や、海藻を原料とした食品を開発している「Nordic Oceanfruit」など、近年それぞれの分野で注目を集めているスタートアップがいくつも参加している。

応募対象はDACH地域(ドイツ・オーストリア・スイス)の女性起業家で、2020年からはチームでの応募も可能となった。例年4〜5月にウェブサイト等を通じて募集を行っている。

FemGems Club

Webサイト: https://www.femgems.club/

フェムジェムズ・クラブは、アーリーステージの女性起業家のためのサブスクリプション制サポートコミュニティだ。申込みが受理されれば、月額50ユーロの会費を支払いながら、自身のビジネス目標達成や成長に必要なサポートや指導が継続的に受けられる。サービスはすべてオンラインで提供されるため、世界中のどこからでも参加が可能だ。

応募時の目標や課題に応じてマッチングされたメンターと1対1で行われる月2回のメンタリング・セッション、コミュニティ会員の中から選ばれるパートナーとお互いの事業の進捗状況をチェックしあう「アカウンタビリティ」、4~6人のメンバーを入れ替えながら隔週で行われる「マスターマインド・ミーティング」を通じて、様々な知見を得ることができる。

High-Tech SeedLab

Webサイト : https://hightechseedlab.com/

欧州社会基金 (European Social Fund = ESF) とベルリン州が助成する、ハイテクベンチャー支援プログラム「ハイテック・シードラブ」。女性起業家に限定したプログラムではないものの、ハイテク分野やサステナビリティ分野の女性起業家を発掘することで、より多くの女性の活躍を促進することに重点を置いており、業界内の性差の是正にも積極的に取り組んでいる。

10ヶ月のサポート期間中、毎月1,500ユーロの奨学金(チームの場合は創業メンバー4人まで)をはじめ、ベルリン内のコワーキングスペースや関連施設へのアクセス権、定期的なワークショップやコーチング、投資家や専門家らとのネットワーキングなど、広範囲な支援を提供する。

主な応募要件として、(1)スタートアップが法人設立前であること、(2)参加者全員がベルリンを拠点にしていること、(3)チームはフルタイムメンバーで構成されていること、(4)チームメンバーが過去に投資資金の回収をしていないこと、などが挙げられている。

F-LANE – Vodafone Institute Accelerator for Female Empowerment

Webサイト: https://www.f-lane.com/

F-LANE(エフ・レーン)は女性のエンパワーメントに貢献するアーリーステージの社会起業家を対象とした、5週間のバーチャル・アクセラレーション・プログラムだ。

「女性主導あるいは女性の地位向上に積極的である」「革新的な技術を基盤としたソリューションを開発できる」「世界中の何百万人もの少女や女性に影響を与える可能性を持つ、拡張性の高い製品やサービスを提供する」などの要件を備えたベンチャー企業を、グローバルなコミュニティや投資家とのネットワークを活用してサポートする。

例年6月から7月末にかけて募集を行い、審査を通過したスタートアップが9月から10月にかけてプログラムに参加する。2020年は世界各地から9社が選ばれ、アジアからは仕事を持つ女性達が安全に乗合タクシーを利用できる定額制サービスの「SheKab(パキスタン)」が参加した。

このプログラムはボーダフォン・インスティテュートユヌス・ソーシャル・ビジネスと協力して実施している。プログラムのサポートとしてミュンヘンの Social Entrepreneurship Akademie (SEA) 、コミュニティ・パートナーとしてベルリンの Impact Hub Berlin 、投資に関するサポート・パートナーとしてベルリンの WLOUNGE も参加している。

fintexx - women in finance

Webサイト: https://www.fintexxwomen.com/

アクセラレーション・プログラムではないが、欧州フィンテック業界の女性エンパワーメントを推進している事業がある。金融業界で働く女性やテック系のバックグラウンドを持つ次世代の女性達に、より多くのネットワーキングの機会を提供することを目的として設立された「フィンテックス」だ。創設者のカロリン・ガーバー博士をはじめ、これまで金融業界で強力なネットワークと実績を築いてきた経営幹部クラスの女性達が中心となり、ヨーロッパ各地の金融のホットスポットでのイベント開催等を通じて、女性同士の交流の機会を提供している。

まとめ

ドイツのスタートアップ・エコシステムにおいて、女性の存在感はいまだに大幅に不足している。その背景には文化的・社会的な様々な要因があり、解決は容易ではない。なかでも女性起業家が直面する最大の課題は資金調達で、特にエンジェル投資家やVCを通じた多額の資金調達に関しては非常に不利な立場にあることは「Female Founders Monitor 2020」の調査結果からも明らかだ。今回紹介したプログラムはいずれもその点を重要視しており、サポートを強化している。

健康・医療分野、ソーシャルビジネス、グリーン経済など、女性がイノベーションの推進力となっている分野はパンデミック以降いっそう重要性を増している。女性起業家ならではの課題の解決を支援し、志を持つ女性達がより広い分野の扉を開いて成長するための取り組みは、社会全体の持続可能性の向上にとっても不可欠だ。


©️JETRO このレポートはCROSSBIEが日本貿易機構(JETRO)向けに作成したものを、許可を得て掲載しています。元のリンクはこちらから。

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