ベルリン・フードテック ・エコシステム「食」領域のイノベーションで持続可能な社会を目指す

Introduction

「食」領域に関するビジネスへの投資が世界中で拡大を続けている。多くの企業がSDGs(持続的な開発目標)に取り組む中で、食に関する社会課題も革新的な技術で改善しようという機運が高まっており、フードテックの盛り上がりは世界的な潮流となっている。2025年の市場規模は全世界で700兆円まで拡大するとの試算もあり、その潜在力はすさまじい。

フードテックが担う領域は広範囲に及ぶ。農業や漁業、食品の生産・製造・加工だけでなく、物流・配送、小売り・外食、調理などの幅広い分野において、先進テクノロジーと既存のビジネスが融合し、あるいは再構築され、新たなサービスやイノベーションが続々と誕生している。今回のレポートでは、ベルリンの「食」を起点とした事業共創エコシステムの一部を紹介したい。

「食」に特化したベンチャーキャピタル

Atlantic Food Labs ( https://foodlabs.de )

フードテック及びアグテック分野に特化したベンチャーキャピタル。「2050年までに100億人の人々に持続可能で健康的な方法で食料を供給するためのソリューション」の開発を目標とするシード期~アーリー期のベンチャー企業を投資対象としている。2016年の設立以降、20社以上のミッションドリブンなチームをアイデア段階からサポート。投資先のベンチャー企業が取り組む事業領域は農業技術、代替タンパク質源、水供給、食糧安全保障、分散型食糧生産、垂直農業、個別化栄養管理、食品廃棄、二酸化炭素削減など、バリューチェーン全体をカバーしている。

HUNGRY VENTURES ( https://www.hungry-ventures.com/en/ )

食品業界にフォーカスしたイノベーション・コンサルタント会社。大企業とスタートアップ企業との協業やスタートアップ投資を促進し、実現可能な成長戦略の策定やイノベーション・プロジェクトの実現を支援する。また、独立したベンチャー・ビルダーとして、新しいビジネスモデルの設計、検証、スケーリングなどのサポートも行っている。

ProVeg Incubator ( https://provegincubator.com )

植物由来および培養食品の開発に携わるアーリーステージのフードテック・スタートアップを対象に、資金調達支援や食糧システムの課題解決に役立つ製品の開発を支援している。12週間のアクセラレータープログラム( https://provegincubator.com/our-programme )を通じて、助成金の支給やメンタリング、ワークショップ、業界のエキスパートとのネットワーキングなど手厚くサポート。2018年11月の設立以来、ヨーロッパ、インド、中南米、イスラエル、インドネシアなど、世界各地の40のスタートアップと協力し、これまでに1,800万ユーロ以上の資金調達と40以上の製品化に成功している。

Purple Orange Ventures ( https://www.purpleorange.com/ )

アメリカ人起業家 Gary Lin 氏によって設立されたインパクト投資ファンド。科学とテクノロジーを活用して、世界の食糧システムから動物を排除し、持続可能な食糧供給を目指すアーリーステージのチームを世界中から募集している。また「フェローシップ・プログラム」を通じて、代替タンパク質製品の開発などに取り組むスタートアップ企業のアイデアが商業的に実現可能かどうかを検証する科学者やエンジニアを対象に、助成金とメンターシップを提供している。

コワーキングスペース/コミュニティ

Food Tech Campus ( https://foodtechcampus.com )

ドイツ食品小売最大手のエデカ(https://www.edeka.de/)が主催する、食とテックのイノベーション・ハブ。コワーキング・スペースやイベント・スペースのほか、商品や料理コンテンツ等の撮影に適した「メディア・キッチン」も併設している。Food Tech Campusの最大の特徴は、エデカ・グループが有する強力なリソースとネットワークを背景に、様々なプレイヤーが共創を生むエコシステムがキャンパス内で形成されている点にある。コンセプト作りから製品の開発、プロトタイピングや専門家によるフィードバックなど、実践を通じてスタートアップ企業の課題に迅速に対応し、新製品や食品小売のための革新的なソリューションを共創する体制が整っている。

KitchenTown Berlin ( https://www.kitchentown.de )

「食」領域に特化したコワーキング・スペースを運営する「KitchenTown(本社:アメリカ・カリフォルニア州)」が、初の海外拠点をベルリンにオープンしたのは2019年。ベルリン市内の主要駅のひとつ Alexanderplatz から徒歩10分程の距離にあるオフィスには、注目のフードテック・スタートアップ企業がいくつも入居する。シェアオフィスとともに、小ロットの食品製造が可能な商業用キッチンや製品開発ラボが併設されており、食に関する起業に最適な環境が整っている。交流のためのイベントも多く、コミュニティやネットワークの構築にも重点を置いている。
KitchenTown Berlin では、フードスタートアップを支援する6ヶ月間のアクセラレータープログラム( https://www.kitchentown.de/accelerator-program )も実施している。6%の株式と引き換えに3万ユーロのプレシード資金を提供するほか、製品開発、サプライチェーン、流通、法務などの専門知識を提供し、各スタートアップのニーズに合わせたサポートを行う。

Next Bite Show ( https://factoryberlin.com/next-bite-show )

ベルリンを代表するスタートアップ・コミュニティ Factory BerlinKitchenTown Berlin が、2020年9月にオンライン・イベント「Next Bite Show」を開催した(現在はアーカイブ動画で視聴可能)。16人の専門家が、フードテック業界の動向や将来、食品科学やAI、IoTの進歩がこの分野にどのような影響を与えるかについて、多角的に議論している。

スタートアップ

Delivery Hero (オンライン食品配達サービス)、HelloFresh (レシピ付き食材宅配サービス)、Infarm(垂直農法による都市農業ソリューション)など、ベルリン発のユニコーン企業にはフードテックやアグテック分野のスタートアップも多い。
食に対する価値観の変化や地球環境問題への配慮が必要不可欠となった今、持続可能な社会を実現する手段の一つとして、バイオテクノロジーなどを基盤としたフードテックが関心を集めている。 代替タンパク質や代替乳製品など消費者向けフードテックのイノベーションで注目されるベルリンのベンチャー企業を紹介する。

betterfish ( http://betterfish.de )

海藻などを原料にした100%植物由来の代替ツナを開発中。原料に海藻を使用することで海洋資源の保全や漁業就業者の雇用維持、手軽で安価なタンパク源の供給など複数の社会問題解決を目指している。
最初の製品としてサンドイッチとピザが2021年6月からディスカウントスーパー「ALDI(アルディ)」のドイツ国内4000店舗で販売される予定。

Bluu Biosciences ( https://www.bluu.bio )

ヨーロッパ初の「細胞培養シーフード」を開発中。海洋生態系に負荷をかけず、持続可能な方法で魚介類を味わうことができる技術として期待される。

Legendairy Foods (www.legendairyfoods.de )

バイオテクノロジーを利用して動物を使わない代替乳製品を生産する、ヨーロッパ初の細胞農業スタートアップ。2019年12月、シードファンディングラウンドで400万ユーロの資金を調達している。

Mushlabs ( https://www.mushlabs.com )

発酵技術を利用して、キノコの「根」である菌糸細胞を成長させ、タンパク質や肉の代替製品の製造に利用している。2020年8月、シリーズAラウンドで1000万米ドルの資金を調達。この資本注入により、Mushlabs のこれまでの資金調達総額は1,220万米ドルとなり、この資金を使って生産とB2Bの流通を拡大するとしている。


©️JETRO このレポートはCROSSBIEが日本貿易機構(JETRO)向けに作成したものを、許可を得て掲載しています。元のリンクはこちらから。

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