「オンラインだからこそできる」を目指す ニューノーマル時代のハイブリッド国際イベントの可能性

Introduction

新型コロナウイルス禍が長期化し、世界の主要な国際見本市や展示会の開催は2021年も先行き不透明な状況が続いている。パンデミック以降、リアルでの開催中止や延期が相次ぎ、多くのイベントがオンライン開催やバーチャル展示へとシフトした。デジタルプラットフォームの活用や代替プログラムの提供など、主催者側が様々な方法を模索する中で一定の成果が見られたと同時に、出展者や参加者にとっての課題も明らかになった。

オンライン開催であっても、国際見本市や展示会が海外でのビジネス創出や販路開拓にとって貴重な機会であることに変わりはない。依然として海外への渡航が制限される中、むしろオンラインの強みを生かして商談につなげるためのヒントを、ドイツや欧州と日本のカルチャーの違いを踏まえて、いくつか紹介したい。

レポートの後半では、ドイツ国内で2021年に開催予定の展示会・イベント情報を取り上げた。すべてのイベントでオンラインでの参加が可能なプログラムやプラットフォームが用意されているので、商談や学びの機会として是非利用していただきたい。

SNSの活用で営業活動と接点づくりを強化

バーチャル開催のイベントでは、展示ブースにチャット機能を組み込むなどして、商談やビジネスマッチングの機会が提供されている。目当ての企業の担当者に直接コンタクトできるためスムーズに商談が始まったというケースがある一方で、「たまたま立ち寄ったブースで話した人が...」といった企業同士の「偶然の出会い」は生まれにくい。イベントを通じてビジネスに繋がる接点を作り出すためには、来場者がより積極的に出展企業とコンタクトを取る必要があり、そのためにはSNSの利用が不可欠だ。

名刺代わりに ”LinkedIn”

日本では名刺交換が一般的だが、海外では「LinkedInのアカウントを持っていなければビジネスの世界に存在していないことを意味する」とさえ言われている、ビジネス特化型のSNS。LinkedInのビジネスプロフィールで確認できる情報は、現在の勤務先や役職をはじめ、過去に働いた企業名と勤務年数、それぞれの企業での業務内容や実績、人脈、スキル、学歴など、名刺の比ではない。

LinkedInは強力な営業ツールでもある。商談前に相手の情報を入手したり、対象企業の担当者と直接もしくは間接的につながっている人に紹介してもらうことが可能だからだ。スタートアップに限らず、企業と仕事をするかを検討する際に担当者間の信頼関係が重視される点は、ドイツも日本と似た傾向がある。イベントを通じて生まれる人的ネットワークやビジネスチャンスを逃さないよう、SNSを活用して積極的にアカウントの交換をすることを強く勧める。

テクノロジーの説明ではなく、ターゲット企業にとっての「価値」を明確に

ソリューションの本質は、あくまでも課題解決を主眼として、そのために最適な製品やサービスを組み合わせること。革新的なテクノロジーを駆使して新しい製品やビジネスモデルを開発したとしても、それが顧客にとってどのような「価値」を実現するのかというポイントを曖昧にしたままでは、展示会や見本市で成果を得ることは難しい。

同様の製品やサービスが多い場合は、他社との差別化とターゲットの明確化を。イベント等を利用して効果的に売り込むためには、ピッチ資料の作り込みも重要となる。30秒で相手を惹きつけるエレベーターピッチ、2分ピッチ、3分ピッチなど、限られた時間の中で効率的に情報を伝えるための工夫が必要だ。

必要な「英語力」

海外展開を目指すスタートアップにとって相応の英語力は必須だ。従事する業務のポジションによって必要とされる英語力は異なるが、何より大切なのは「自信を持って話せる」こと。これが存外、日本人には難しい。

自社及び自社製品をPRするためのピッチに挑む場合には、Q&Aに即時対応できる会話力が欠かせない。オンライン商談の場面では、相手の文化的背景を考慮したうえでの交渉力といった高いコミュニケーション能力が求められる。海外営業や商談通訳など専門のスキルを持った人材の確保も、必要に応じて検討すべきだろう。

事前準備が成功のカギ

ツールが発達し、オンラインでの商談も以前よりも格段にスムーズに行えるようになった。とはいえ、成果を上げるためには対面での商談以上にしっかりとした事前準備が必要だ。オンライン形式やハイブリッド形式でのイベント開催が主流となる中、オンライン型とオフライン型それぞれの特性と利点を理解したうえで、ビジネス施策に取り入れることが重要となる。

以下にドイツ国内で今後開催予定の主要イベントを取り上げる。グローバルな人的ネットワークの構築やビジネス機会創出の参考にしていただきたい。

*開催状況は随時変更となる可能性があるため、最新情報は公式ウェブサイトにて要確認。
参考リンク)ドイツの見本市・展示会 | 世界の見本市データベース(J-messe) - ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/j-messe/country/europe/de/

HANNOVER MESSE 2021 Digital Edition(ハノーバー)

2021年4月12日〜16日

  • オンライン開催

  • ビジターチケット:19,95 €

  • 公式ウェブサイト:https://www.hannovermesse.de/

製造業の最先端が集まる世界最大級の産業見本市。AIやロボティクス、自動化技術、物流IT、産業用ソフトウェア、バッテリーや燃料電池など 「Industrial Transformation (産業の変革)」をテーマに、業界の最新技術やアイデアを紹介する。

「エキスポ」「カンファレンス」「ネットワーキング」の各セクション毎に、充実したオンライン・プログラムを提供する。

CONSUMER GOODS DIGITAL DAY

毎年ドイツ・フランクフルトで開催されている世界最大規模の一般生活消費財見本市「アンビエンテ」。例年90カ国以上から4,600社以上の出展者が集まり、バイヤーとの商談を行う。

今年は4つの見本市「アンビエンテ」「クリスマスワールド」「クリエイティブワールド」「ペーパーワールド」が合同でオンラインイベントを開催。ライブ配信やネットワーキングのほか、ホーム&リビング業界初の注文・データ管理プラットフォーム「Nextrade」を使用した取引も行う。

Industry of Things World(ベルリン)

 ヨーロッパの大手製造企業から450人以上のトップエキスパートが集う産業用IoTイベント。第7回目となる2021年は、ベルリン会場からのライブ中継と、デジタルイベントプラットフォーム「hubs101」を使用したハイブリッドで開催する。

 

ANUGA(ケルン)

  • 2021年10月9日〜13日

  • ハイブリット開催

  • 参加費:詳細未定(2021年7月頃に発表予定)

  • 公式ウェブサイト:http://www.anuga.de/

2年に1度開催される、食品・飲料・健康食品・サプリメント等を扱う世界最大の食品見本市。100周年を迎えた前回(2019年)は、世界106カ国から約8,000社が出展、5日間の会期中に約17万人が来場した。

2021年も現地開催を予定しているほか、デジタルプラットフォーム「Anuga @home」を導入し、ライブ中継やオンライセミナー、バーチャルカフェなどのデジタルコンテンツも充実させる。

AsiaBerlin Summit(ベルリン)

ベルリン州経済エネルギー公共企業局が主催する国際サミット。アジア圏内の拠点都市から投資家やスタートアップ、エコシステムビルダーらが集い、活発な商談やネットワーキングが行われる。2021年は公式サテライトイベントとして「日独交流160周年記念スタートアップサミット(仮)」も開催される予定。

FRONTIERS HEALTH (ベルリン)

ヘルスケアの変革、投資やエコシステムの開発など、デジタルヘルスのイノベーションに重点を置いた世界的なイベント。ハイブリッド開催となった2020年は、40カ国からヘルス・イノベーション・エコシステムのあらゆる分野の代表者ら1,000以上が参加した。

 【関連イベント】Frontiers NEXT Wellbeing

ウェルビーイングの未来をテーマにした2日間のグローバルイベント。神経科学や植物学、テクノロジーに関する基調講演やパネルディスカッションのほか、インタラクティブなネットワーキングセッションが行われる。ミラノ、サンフランシスコ、ドバイ、リヤドの各都市で現地開催するほか、ライブ配信も実施。

 

MEDICA(デュッセルドルフ)

  • 2021年11月15日〜18日

  • ハイブリッド開催

  • 参加費:詳細未定(2021年8月1日からチケット販売予定)

  • 公式ウェブサイト:https://www.medica-tradefair.com/

世界最大規模の医療機器・技術専門見本市。2020年は「virtual.MEDICA」と題して初のオンラインの開催となり、62カ国から1,500以上の企業が出展。パネル・ディスカッションのライブ配信やビデオ会議、マッチメイキングなど100を超える各種ウェブセッションには、169カ国から45,000以上のユニークユーザーが参加した。2021年はハイブリッドで開催予定。


©️JETRO このレポートはCROSSBIEが日本貿易機構(JETRO)向けに作成したものを、許可を得て掲載しています。元のリンクはこちらから。

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