医師が処方する「治療用アプリ」 デジタルヘルスケア法が促すドイツ医療分野のイノベーション

Introduction

デジタルヘルスの分野には今、さまざまな可能性が広がってきている。

2019年11月、ドイツ連邦議会は「デジタルヘルスケア法(DVG: Digitale Versorgung Gesetz)」を可決し、同法は同年12月に施行となった。本法によってオンライン診療や「デジタルヘルスアプリ(DiGA: Digitale Gesundheitsanwendung)」の処方がヘルスケアシステムに導入され、保険償還が可能となった。データの安全性や機能性等の要件を満たして当局の承認を得たデジタルヘルスアプリ(DiGA)の利用費用が公的医療保険の払い戻し対象となる、世界初の試みだ。

デジタルヘルスケア法に加えて、治療に貢献するアプリに特化した薬事承認・保険償還制度(DiGA Fast-Track)も2019年12月より運用が始まった。開発企業にとっては保険償還価格に対する予見性が高くなったため、積極的に早期開発を推進できる。革新的な技術やアイデアを持つスタートアップ企業にとっても、医療サービスの一翼を担いやすくなった。

新しい治療オプションとしてのDiGA

医師または心理療法士によってデジタルヘルスアプリ(DiGA)が処方されると、患者は自身が加入する保険会社に処方箋を提出、保険会社から通知されるアクティベーションコードを使ってアプリにログインし、スマートフォンなどを利用して患者個人の健康管理に役立てる。

現在、17のデジタルヘルスアプリがドイツ連邦医薬品医療機器研究所(BfArM)が管理する「医療費償還適用リスト(DiGAディレクトリ)」に収載されており、保険診療の対象となっている。そのうち以下の5つのアプリが恒久的に承認されている。

DiGAの対象となるデジタルヘルスアプリは、以下の要件を満たしている必要がある。

  • CEマークを取得したリスククラスIまたはIIaの医療機器である

  • デジタル技術が主な機能を占める

  • 疾病の発見、監視、治療、軽減、または傷害や障害の発見、治療、軽減、補償を支援する

  • 患者のみ、または患者と医療従事者が一緒に使用する

  • 欧州医療機器規則(MDR: Medical Device Regulation)に準拠する

  • BfArMの評価基準(品質、機能性、有効性、データ保護の評価を含む)を満たしている

DiGA Fast-Track プロセス概要

自社の開発したデジタル・ソリューションが「DiGA」として登録され保険償還の対象となるためには、BfArM(ドイツ連邦医薬品医療機器研究所)にファスト・トラック審査の申請をする必要がある。

BfArMは申請書を受理した後、3ヶ月以内に評価を行う。製品および申請書がすべての要件を満たし承認された場合、DiGAディレクトリに収載される。

「ポジティブ・ケア・エフェクト」の証明

DiGAディレクトリに収載されるためには、ドイツ国内で臨床試験の評価を受け「ポジティブ・ケア・エフェクト(良好な医療効果)」を証明することも重要な要件となる。

他のすべての要件を満たしているにもかかわらず、良好な医療効果の証明がまだ完全には確立されていない場合には、DiGAディレクトリへの暫定的な登録がBfArMによって認められる。

その場合は1年間(例外的に2年間)を試用期間とし、企業は製品を市場に出しながら医療効果を証明する時間的猶予を得ることができる。さらにこの期間も保険償還が行われることで、開発者やスタートアップ企業が新規参入しやすい環境を作り、デジタルヘルス関連ビジネスの急速な成長と進化を可能にしている点が、この制度の特徴だ。

試用期間を経て有効なデータに基づく良好な医療効果が実証された場合、DiGAディレクトリへの恒久的な収載が承認され、保険当局と正式な価格交渉が可能となる。

まとめ

ドイツ政府は、医療分野のデジタル化とイノベーションを推進すべく、ヘルスケアに関するイノベーション・ファンドを2024年まで延長し、年間2億ユーロ(約264億円)を拠出すると発表している。

デジタルヘルスケア法の施行によって、ドイツが長年停滞していた医療サービスのデジタル化を一気に加速させようとしている今こそ、従来とは異なるアプローチで医療に貢献できる可能性や技術を持ったスタートアップ企業の参入が大いに期待される。


©️JETRO このレポートはCROSSBIEが日本貿易機構(JETRO)向けに作成したものを、許可を得て掲載しています。元のリンクはこちらから。

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