コロナ禍が追い風、成長するスタートアップ 新たな需要を捉えて躍進、支援策や投資が後押し

Introduction

長引く新型コロナ禍で多くの企業が影響を受ける中、ニューノーマルに対応し好業績を収めた企業もある。身近な例のひとつが食品配送分野の新興企業だ。

ロックダウンなどの行動制限措置をはじめ、パンデミックがもたらしたライフスタイルや消費行動の変化を背景に、ECビジネスが躍進。中でも食料品や日用品をオンデマンドで配送するスタートアップが次々と誕生し急成長を遂げている。

Gorillas(ゴリラス):創業から1年未満で、EU最速ユニコーン企業に

ドイツ全土で実施されていた都市封鎖措置が段階的に緩和され始めていた2020年5月、グローサリー・オンデマンド配送スタートアップ「Gorillas」がベルリンで誕生した。自社で仕入れた商品を「ダークストア」と呼ばれる専用の物流拠点で保管し、直接雇用した配達要員がラストワンマイル配送に対応することで「注文から10分以内に配送」を実現するビジネスで、欧州のみならずアメリカや中国でも急速に広まりつつある業態だ。多くの同業が凌ぎを削る中、2021年3月、Gorillas はシリーズBで2億9,000万ドルを調達し、創業から10ヶ月足らずという驚異的なスピードでユニコーン企業となった。

Flink(フリンク)

ドイツ語で「速い(quick)」を意味するFlinkも「10分でお届け」を謳う食料品オンデマンド配送スタートアップだ。ベルリンを拠点とするFlinkは、2020年12月の設立からわずか半年後の今年6月、シリーズAで2億4,000万ドルの大型資金を調達し、同時にドイツ第2位のスーパーマーケットチェーン「Rewe Group(レーベグループ)」との戦略的パートナーシップ締結を発表した。競合他社がひしめくq-コマース(クイックコマース)市場で、今後どのような戦略を打ち出していくのかが注目される。

ミュンヘン発、次世代モビリティ関連企業

ベルリンに次ぐドイツ第2位のスタートアップハブ都市ミュンヘンでも、新たな挑戦をする企業が話題となった。輸送業界がコロナ禍で大打撃を受ける中、次世代モビリティ関連企業が成長を続けている。

2025年までに都市部での「空飛ぶタクシー」の実用化を目指してeVTOL(電動垂直離着陸機)を開発している「Lilium(リリウム)」。2015年にミュンヘンで創業した同社は、2020年3月にユニコーンとなり、2021年3月にはSPAC (特別買収目的会社)との合併により評価額33億ドルでナスダックに上場すると発表した。

同じくミュンヘンを拠点に駐車場管理ソリューションのデバイスやシステムを開発している「Parkdepot(パークデポ)」は、2019年の創業以来、毎月30%の成長率を記録している。2021年3月にはシードラウンドで420万ユーロを調達、今後2年以内にヨーロッパ最大の駐車場管理会社になることを目指している。

コロナ禍で顕在化したドイツのスタートアップエコシステムの強み

2020年のEU圏内でのVCによる資金調達額では、約53億ユーロを調達したドイツが僅差でフランスを抑えて1位となった(※)。パンデミック初期には一時的に投資への躊躇が見られたものの、その後回復傾向をたどり、年単位で見ると投資額に大きな影響は出ていない。

(※出所:Ernst & Young GmbH Wirtschaftsprüfungsgesellschaft ”Stratup-Barometer Europa”, April 2021,  p.6)

ドイツは国内各地にスタートアップ成長のための強力なエコシステムを構築しており、これを支えているのが政府や自治体など行政主導の支援策と大企業による積極的な投資だ。

ベルリンの「IoT&フィンテック・ハブ」からミュンヘンの「モビリティ&インシュアテック・ハブ」に至るまで、地域の特色を生かしたデジタル・ハブ(de.hubs)がドイツ国内12都市で形成されている。ドイツ連邦経済エネルギー省(BMWi)の戦略の一環として、地域産業のデジタル化を推進するとともに、既存企業や研究機関とのマッチングによってスタートアップを支援する取り組みだ。

ロックダウン期間中には、ドイツ連邦政府は苦境にあるスタートアップを存続させるために20億ユーロの国家支援策を導入。州政府レベルでも個人事業主や小企業向けに補助金を支給するなど多くの緊急救済措置が取られた。それ以前からの自治体主導の支援例として、ベルリン市は創業当初の企業に対して毎月2,000ユーロの補助金の支給やコワーキングスペースの無料利用、メンターやパートナーの紹介など、創業期のサポートを強化していることが挙げられる。

シーメンス、バイエル、BMW、ダイムラーなど、ヨーロッパで最も活発なコーポレート・ベンチャーキャピタルが数多く存在するドイツでは、民間企業からの地元スタートアップへの積極投資もエコシステムを支えるうえで重要な役割を果たしている。

官民連携による重層的な支援策をはじめ、社会福祉や医療サービスの充実などパンデミック後に重要性を増した要因も相まって、ドイツは欧州全土の中でも魅力あるスタートアップの中心地のひとつとなっている。

<関連記事>
新型コロナ禍下でも前向きなドイツのスタートアップ:打撃を受けるも人材は確保、環境や社会への貢献を重視
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2021/d9495fe9a8cc8c38.html


©️JETRO このレポートはCROSSBIEが日本貿易機構(JETRO)向けに作成したものを、許可を得て掲載しています。元のリンクはこちらから。

Previous
Previous

進む教育分野のデジタルトランスフォーメーション パンデミック対応から未来のためのデジタル教育へ

Next
Next

EUで使い捨てプラスチック製品の新規制が施行 持続可能な循環型経済への移行を推進