オープンイノベーションで挑むスマートシティ戦略 -住みたくなる都市、ベルリンへ-

Photo credit: @ Vattenfall GmbH

Introduction

ベルリン州が新たなスマートシティ戦略に取り組んでいる。

最初にベルリンがスマートシティ戦略を打ち出したのは2015年。2050年には人口の約70%が都市部に住むとの試算のもと、人口集中が引き起こすであろう課題や世界規模で取り組むべき持続可能性に向けた解決策を鑑み、ベルリン州の国際競争力向上やリソース削減への布石、気候変動対策などが盛り込まれていた。

あれから7年が経った。持続可能な社会に向けた具体策を実装しながら見えてきたのは、機能的なスマートシティの実現と同時に必要なのは人間中心の「住める街・住みたい街」であるということだ。新スマートシティ戦略に取り組むベルリンの、最新関連動向を紹介する。

スマートな都市OSの形成だけでは不十分

ベルリンのスマートシティ戦略は、エコシステムを巻き込んでの「ダイアログ型オープンイノベーション」とも言えるだろう。2021年に幕を閉じたテーゲル空港の再利用に関してはもちろん、新しいビルが建設される際などにスマートシティ化計画を推進するのは専門家だけに限らない。プロジェクトのステークホルダーは情報を公開し、市民団体やスタートアップは意見やソリューションを提案する。

新型コロナによって働き方の変更を余儀なくされたのはドイツも同じだ。それはどこで働くかというだけでなく、働くこと自体へのマインドセットシフトを促した。どこに住み、どこで働くか、どのように働くか、通勤の仕方はどうか、働く環境を与えてくれる企業の価値観はどうなっているのか、それは会社のカルチャーとして具現化されているのか。パンデミックは、ワークライフバランスへの考え方を根本的に変えた。

ポストコロナのスマートシティは、テクノロジーによって持続可能でスマートな都市を構築するだけでは不十分だ。「持続可能でスマートな都市」はOSとして当然なこととして期待され、その上で新しい価値観を共有する都市、すなわち「住める・住みたい都市」なのかが問われ求められる。

そしてそれは、企業レベルでも対応する必要がある。

本社社屋がCO2ネットゼロ。バッテンフォールがめざす次の布石

バッテンフォール(Vattenfall GmbH)はベルリンに本社をおく大手電力・エネルギー会社で、ベルリン南駅に2022年にオープンする22,000平米の本社ビルを建設中だ。建築パートナーは、持続可能な商業建築に多くの実績を持つオランダ企業「EDGE」。EDGEは2007年、オランダのロッテルダムに世界初となるエネルギーニュートラルなビルを建設したことで一躍注目を浴びた企業である。

EDGEが建設を請け負ったバッテンフォールの新社屋は、温室効果ガスのネットゼロをビジョンに木材をふんだんに使用した結果、通常のコンクリート建設と比較して、最大で1平米あたり80%のCO2削減を実現する。

このバッテンフォールとEDGEが、更なる持続可能性の実現を目指し、スタートアップとのオープンイノベーションチャレンジを行った。

募集からPoCを経て、本社ビルへの実装が始まるまでたったの6ヶ月。欧州各国から応募があり、最終選考に残ったのは3社(Amanda Arruti, Guillermo S. Quintana & Martin Borini、EcobeanSallyR)。共創スタートアップに求められたのは、持続可能なイノベーションであることは言うまでもないが、最終選考通過基準としてバッテンフォールとEDGEが特に重きを置いたのは、その持続可能なソリューションの「見える化」だった。

持続可能なダイアログを生み出すために、スタートアップを実装する

バッテンフォールの社員等が通う本社は、先にあげたように建物自体がネットゼロに近づくよう建設されている。ネットゼロの実現には、ビル建設だけでなく、そこで日々働く人々が、どうすればCO2の排出を最小限にできるのか、CO2を吸収除去に繋がるのかなど、普段の生活や職場環境にも自然と意識を向けることが出来る仕組みがあるとより効果的だ。

オープンイノベーションチャレンジで実装された2社のスタートアップは、ポーランドのEcobeanとスウェーデンのSallyR。Ecobeanはコーヒーの廃棄物を再利用することでCO2の排出を削減し、SallyRは屋内の空気を浄化させる過程でCO2も除去する。休憩時に飲むコーヒーが食堂の食器としてリサイクルされていることや、換気をしないことで汚染された空気を取り込まないだけでなく二酸化炭素も外に排出しない空気清浄機は、皆の話題になり、社員や来訪者に環境への意識を高め、まわりを巻き込みながら更なる行動変容を喚起する。

皆をオープンに巻き込むダイアログで、企業の社屋といった枠を超え、社会に高いインパクトをもたらすことまでがミッションなのだ。

CO2削減かつQOLを支えるベルリンのスタートアップ2社

ベルリンのスタートアップについても紹介しよう。

LEAFTECH ( https://leaftech.eu/ )

LEAFTECHは、商業用ビルのデジタルツインを作ることで、部屋レベル・窓レベルでエネルギー管理に取り組むスタートアップだ。日本企業のFUJITSUとPoCをしたこともある。ビル内の気温やCO2レベルを計測するためIoT端末を導入する場合もあるが、それではコストがかかりすぎる。そのためハードウェアは使用せず、AIのみで建物のエネルギー管理システム(Building Management System: BMS)を最適化するスタートアップが活躍し始めた。その中でもLEAFTECHは、各部屋ごとに気温等を調節したり、窓ごとにブラインドをコントロールできるのが特徴だ。データを解析した予測機能で省エネを実現しながら、建物のどこにいても利用者一人ひとりに快適な環境を提供することを目指している。

KUGU ( https://www.kugu-home.com/ )

スケールを狙うスタートアップにとって、商業ビルはある意味営業効率がいいとも言えるだろう。一方、ドイツによくある築100年超の住宅などをネットワーク化し、エネルギー管理を行うのは手間がかかる。それに挑戦するのがKUGUだ。

ベルリン州管轄の不動産会社Gewobag主催のイノベーションアウォードも受賞したKUGUは、古いビルや家が多い街を、エネルギー効率が見える化され、誰にとっても住みやすくQOL(生活環境の質)の高い家にしていくソリューションを提供する。

最後に

スマートシティ戦略は、ハード部分では建設業界、そしてAIの加速と共にスタートアップのデジタルリューションの実装が進んでいる。エネルギー効率やCO2削減に向けた取り組みだけでなく、利用者全てが快適に過ごせること、さらにその取り組みの意味を見える化することでダイアログを生み、結果として多くの人に啓蒙していく。ベルリンの新しいスマートシティ戦略は、市民を巻き込んでの持続可能なイノベーション・エコシステムの構築そのものとも言えるのではないだろうか。

参照リンク

MODEL PROJECT SMART CITY BERLIN “Berlin lebenswert smart“
https://smart-city-berlin.de/en/strategy/modelproject

Smart City Berlin | The European Commision’s Intelligent Cities Challenge
https://www.intelligentcitieschallenge.eu/good-practices/smart-city-berlin#:~:text=The%20objectives%20of%20the%20smart,pilot%20market%20for%20innovative%20applications.

EDGE Suedkreuz Berlin
https://group.vattenfall.com/de/unternehmen/arbeitswelt/berlin-suedkreuz/sustainable-challenge/about-edge-suedkreuz-berlin

Ecobean
https://ecobean.pl/

EDGE | Some carbon capture with your coffee? | Sustainability Challenge Winners, 24 SEPTEMBER 2021
https://edge.tech/article/blog/some-carbon-capture-with-your-coffee-sustainability-challenge-winners


©︎JETRO このレポートは著作権者である日本貿易振興機構(JETRO)の許可のもとに掲載しています。元のリンクはこちらから。

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