ベルリンの潜在能力を引き出すために -市の施策と調査報告書に見る今後の展望-

Introduction

2021年12月21日、ドイツ社会民主党(SPD)所属で前家族・高齢者・女性・青少年相のフランツィスカ・ギファイ氏がベルリン市長に就任した。新体制発足直後、ベルリン市政府上院は「100-Tage-Programm」という課題を自らに課した。任期最初の100日間、つまり2022年3月31日までに、今後5年間に優先的かつ迅速に取り組むべき施策をまとめ、社会実装推進のためのガイドラインを策定するというものだ。

「より社会性・多様性・持続可能性があり安全、かつ経済活動を強化し、市民優先のデジタル行政」を目標に、ベルリン市が直面する喫緊の諸課題 ー 住宅問題や教育問題、最低賃金の引き上げ、行政のデジタル化など40の具体的な施策を掲げた。

「スタートアップ・エコシステムをさらに強化・拡大する」こともそうした目標のひとつ。ベルリンのエコシステムを改善するために可能なアクションを特定するために、エコシステムの様々な関係者とともに意見を集約し、提言がまとめられた。

Berlin Startup Agenda 2026

「100-Tage-Programm」の一環として策定された「Startup Agenda Berlin」では、ベルリン州の公的機関と連携したインフラや資本、人材などの継続的な支援が盛り込まれた。この指針を発展させ、今後特に注力していく目標や支援策を明確にしたのが「Berlin Startup Agenda 2026」だ。

主要な目標は以下の5つ。

  • 持続可能性を高め、経済と社会の将来的な存続を可能にする。

  • 人材育成の拡大、特に研修、大学、新人教育の役割を支援することで人材育成を行う。

  • 近代的なデジタル行政へのスタートアップ企業の貢献を可能にする。

  • ダイバーシティと女性の起業家精神を促進する。

  • スタートアップ企業と中小企業及び大学を連携させる。

ベルリン・ブランデンブルク大都市圏をヨーロッパでも有数のビジネスとテクノロジーの拠点とするべく、ベルリン・スタートアップ・エコシステムの潜在能力を引き出すことに一層注力する方針だ。

Berlin Startup Report

「Berlin Startup Agenda 2026」が発表されたイベントでは、同時に調査分析レポート「Berlin Startup Report」もリリースされた。2021年、ベルリンのスタートアップ市場にはかつてないほど多くの資本が流れ込み、資金調達額は100億ユーロを超えた。機関投資家だけでなく、民間企業による多様な資金調達が行われていることも成長の要因となっている。レポートではこうしたプラスの影響の他にも、スタートアップエコシステムを発展させるために考慮すべき課題も指摘している。

1)多様な資金調達状況
民間金融機関や機関投資家からなる多様な資金調達手段が利用可能。

2)過去最高の資金流入額
資金調達ラウンドは依然として高水準を維持し、さらなる記録達成も視野に入っている。企業の頭脳流出やノウハウの国外流出リスクを軽減するため、より多くの国内投資家による大規模な資金調達が求められている。

3)スタートアップの経済的妥当性
公式統計における「スタートアップ」の分類が曖昧なため、経済的重要性は通常の主要数値を用いて概算することしかできないものの、スタートアップは経済・雇用政策の観点からも、ベルリンのサクセスストーリーに大きく貢献している。

4)仕事と能力
スタートアップに限らず、ベルリンの多くの企業にとって、高度な知識や技能を有する人材の確保は現在最大の課題となっている。

5)社員の経営参画を可能に
社員が意思決定に参画できる組織構造になっていない。変革を促す連邦レベルでの取り組みが求められる。

6)著しく低い女性比率
創業者や投資家に占める女性の割合が低すぎる。近年、数多くの取り組みが行われているものの、女性の起業促進にはまだまだ未開拓のポテンシャルが秘められている。

7)スタートアップの核となる大学
ベルリンの大学とそのスタートアップセンターが、起業にとって極めて重要であることは疑う余地がない。より詳細な分析を行うことで、スピンオフを促進できる。

8)共に成長するスタートアップと中小企業
デジタルトランスフォーメーションはスタートアップと中小企業の連携において、引き続き重要な役割を担っている。ベルリンは今後も中小企業をベルリンに誘致すべきである。

Startup Barometer Germany, January 2022

アーンスト・アンド・ヤングの報告書「Startup Barometer Germany」によれば、2021年はドイツ全体で約174億ユーロ、1,160件の資金調達が実施された。このうちの60%、105億ユーロがベルリンのスタートアップに流れ込んだ(前年:31億ユーロ)。

注目すべきは投資案件の量だけでなく、その規模の大きさだ。EYの調査によると、ベルリンの1ラウンドあたりの平均調達額は2,100万ユーロという驚くべきものだった。

2021年のベルリンのディールのうち、33件が1億ユーロ以上、8件が5億ユーロ以上だった。最高額はベルリンを拠点とするフードデリバリー・スタートアップGorillasが行った8億6,100万ユーロ。国全体で見れば、ドイツのトップ10ディールのうち7つがベルリンで行われた。

メガディールの数が増えるにつれて、未上場で時価総額10億ドルを超えるユニコーンの数も増える。2021年、ドイツではユニコーンが急増した。世界経済の先行きが不透明な中でも歩みを止めず、更なる発展を目指すベルリンのスタートアップ・エコシステムから、2022年はどんな企業が頭角を現すのだろうか。引き続きその行方に注目したい。


©︎JETRO このレポートは著作権者である日本貿易振興機構(JETRO)の許可のもとに掲載しています。元のリンクはこちらから。

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