ドイツ政府のコロナ禍支援策 補助金・税制優遇などスタートアップが利用できるものを中心に

Introduction

2020年は誰もが予想できないような形で始まってしまった。新型コロナウイルスのダメージは世界規模で、ADIDASやBMWのような大企業でさえも厳しい状況に直面しており、もちろんスタートアップもその影響を受け大変厳しい状況に陥っている。ドイツのスタートアップ企業の約9割が今年度の大幅な収益減を、約7割が事業縮小や休廃業を懸念している。

そういった不安要因にむけ、ドイツ連邦政府の対応は早かったとされる。今回のレポートでは、スタートアップが利用できる補助金等の助成プログラムを中心に紹介する。

  1. コロナ緊急支援金(Corona Soforthilge)

3月に「コロナ危機」が始まると、学校や商業店舗、レストランが閉鎖され、日常生活が制限されるようになった。それとほぼ同時に、連邦と州それぞれで緊急支援プログラムが開始された。多くの州では申請手続きがオンラインのみで行うことができ、申請から支給までの期間は最速2日で完了するなど、その迅速な対応がドイツ内外から多大な支持を得た。

ドイツは連邦制で、当初は仕様も州ごとに異なる面もあったが、4月初旬に連邦政府管轄の「Soforthilfe Corona」として統一された。このコロナ緊急支援金は、フリーランス・個人事業主・小規模企業を対象としており、多くのアーリーステージスタートアップが恩恵を受けている。申請の締め切りは5月末で現在コロナ緊急支援プログラムは終了したが、内容は以下のようなものであった。

コロナ緊急支援金概要
4月までの各州で異なるプログラム4月6日以降のプログラム
支援元ベルリン州連邦政府連邦政府
申請企業・フリーランス
・個人事業主
・従業員5人までの企業
・フリーランス
・個人事業主
・従業員10人までの企業
・フリーランス
・個人事業主
・従業員10人までの企業
支給金額 一律:
5000ユーロ
5人までの会社:
9000ユーロ

6人から10人までの会社:
15000ユーロ
5人までの会社:
9000ユーロ

6人から10人までの会社:
15000ユーロ
経費使途・事業用施設の賃貸料及び付帯費用、リース料
・商業保険料
・事業用の物品及び設備の貸付金及びリース料
・車両のリース費用と整備
・事業の通信費
・プロバイダ、ドメイン、ウェブ等のランニング・メンテナンスコスト
・事務機器の維持管理費
・マーケティング、広告宣伝などにかかる費用
・その他
従業員定義・フルタイム 、週30時間労働以上、及び研修生= 係数1
・週30時間労働まで = 係数0.75
・週20時間労働まで = 係数0.5
・月給450ユーロ以下のミニジョブ= 係数0.3
その他・法人(会社・自営業者)各社1回のみ申請可
・2019年12月31日の時点で既に経済的に困難なであった企業は対象外
・コロナ危機による影響で財務状況が悪化した企業が対象

2. コロナつなぎ資金支援金(Corona Überbrückungshilfe)

上記のコロナ緊急支援金の終了に続き、7月から9月までの3ヶ月間にわたり中規模企業向けに合計250億ユーロの支援策が開始される。

コロナつなぎ資金概要
条件: 2020年4月と5月の合計売上高が、前年同期と比較して60%以上減少していること(2019年4月以降に設立された企業の場合、2020年4月と5月の合計売上高が、2019年11月と12月と比較して60%以上減少していること)
使途制限: 対象はランニングコスト
補助金額: 従業員5人までの企業 最大 9,000ユーロ
従業員10人までの企業 最大 15,000ユーロ

3. コロナマッチング資金(Corona Matching Facility)

ドイツ連邦政府による、スタートアップを対象として行う資金政策の1つの柱となるのが、このコロナマッチンング資金である。5月に発表されたこの救済策は、過去に投資家(VC)の支援を受けた成長ステージのスタートアップ、またはこれから投資を受けるスタートアップが対象となっており、申請者はスタートアップではなく、その投資を行うVCというところが非常に特徴的だ。
エンジェル投資家など、まだVCのいないアーリーステージのスタートアップへの救済措置としては、州ごとの対策が取られている。例えばベルリンではベルリン投資銀行を暫定引き受けVCとすることができる。

コロナマッチング資金概要

既にVCのいるスタートアップは、ドイツ復興金融公庫のKfW Capital、または欧州投資基金(EIF)を通じて申請。VCのいないスタートアップは州ごとに異なり、ベルリンの場合は、ベルリン投資銀行(IBB)より申請。
条件:2019年12月には財政的に困難な状況になかったこと
対象:ドイツと密接な関係にあるアーリーから成長ステージのスタートアップへの投資
補助金額:上限設定なし

4. 就業短縮措置(Kurzarbeit)

新型コロナウイルスの影響によって休業となった企業も多い。従業員に給与を支払うのが徐々に厳しくなり、最終的に倒産を避けるため、従業員を解雇する決断を迫られる会社も少なくない。労働者の権利が守られているドイツにおいても、この流れは免れない。そこであたらめて注目されているのが、「Kurzarbeit」、就業短縮措置という従業員の労働時間を最大100%減らせる仕組みだ。
これは従業員を解雇するのではなく、労働時間を短くするというものだ。企業は労働時間に応じて給与を支払い、労働局がカットされた分を給付するシステムとなっている。もともとあった制度ではあるものの、コロナ禍での状況に対応するため、既存の厳しい条件も簡略化された。
書類等もウェブアプリを通しても提出できるようになどと便宜が図られているものの、子供の有無などにより給付金額が設定されており、従業員ごとに短縮時間等が異なるため、申請にあたり専門家の手を借りることも可能だ。

5. 税制上のコロナ景気対策

ドイツでは2020年3月より様々な税制措置が導入されてきた。特に6月3日メルケル政権は以下のような税制措置を盛り込んだ包括的な景気対策を発表した。

  • 2020年7月から12月まで、付加価値税(VAT)の税率を19%から16%に引き下げ、食料品等に適応されている軽減税率を7%から5%に引き下げる

  • 子供一人あたり一律300ユーロを現金支給

  • 前出の就業短縮の一部の課税対象給与が、課税免除となる

  • コロナ手当てボーナスを支給する場合、1500ユーロまでは課税免除とする

それ以外にも、予定納税の支払猶予、確定申告期間を延長することも可能である。

今後の展望

6月に入り、新型コロナウィルスによる外出制限なども緩和され、一部国境もオープンしたドイツ。様々なステージのスタートアップや企業は、段階的に導入されてきた経済措置の恩恵を受けている。今後は付加価値税等の削減や「Neustart Kulture」という10億ユーロ規模の文化再興プログラムも採択される。さらなる支援を広げることで、ドイツ全体の経済はもちろん、消費やカルチャーを盛り上げて包括的な景気回復へのスタートに期待がよせられる。

本レポートはCROSSBIEのメンターでもある日系企業専門弁護士ロマン・クゥドゥスが執筆しました。ご相談等はJETRO Global Acceleration Hub Berlinまでお申し込み下さい。


©️JETRO このレポートはCROSSBIEが日本貿易機構(JETRO)向けに作成したものを、許可を得て掲載しています。元のリンクはこちらから。

Previous
Previous

ドイツ・ベルリンR&D向け支援策 ドイツ・ベルリンR&D向け支援策現地スタートアップが利用できる補助金・税制優遇など

Next
Next

ベルリンアクセラレータープログラム 日本のスタートアップが参加できるものを中心に